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東京高等裁判所 昭和41年(行ス)14号 決定 1967年3月18日

抗告人 金浩司

右代理人弁護士 森川金寿

近藤綸二

稲葉誠一

松山正

相手方 横浜入国管理事務所主任審査官 高木民司

主文

原決定を取消す。

相手方の抗告人に対する昭和四一年一二月二〇日付退去強制令書に基づく送還は、横浜地方裁判所昭和四一年(行ウ)第二二号退去強制令書発付処分等取消請求事件の判決確定にいたるまで、これを停止する。

申立費用は、原審及び当審を通じて、全部相手方の負担とする。

理由

抗告人は、「原決定を取消す。相手方の抗告人に対する昭和四一年一二月二〇日付退去強制令書の発付処分に基づく執行は、本案判決の確定にいたるまで、これを停止する。」との裁判を求め、その理由として、別紙即時抗告申立理由書記載のとおり主張した。

按ずるに、本件記録によれば、抗告人は、その主張の退去強制令書の執行を受け身柄収容中のものであるが、横浜地方裁判所に対して右退去強制令書発付処分等取消しの訴えを提起し(同庁昭和四一年(行ウ)第二二号)、右本案判決の確定にいたるまで、右退去強制令書の執行停止を求めるため、本件申立に及んだものであることが明らかである。そして、本件記録によれば、右退去強制令書発付の経緯は次のとおりである。すなわち、抗告人は、昭和四〇年三月二九日有効な旅券又は乗員手帳を所持することなく、韓国船第一宜珍号に便乗し、神戸港に不法に入国した。法務大臣は、入国審査官及び特別審理官の出入国管理令第二四条第一号に該当するとの認定若しくは判定に対し、抗告人の異議申出を理由がないものとしたが、抗告人に対して適法な手続を経て本邦に入国する機会を与えるために、正規出国を可能ならしめるため、昭和四一年三月二日在留期間六〇日の在留特別許可の裁決をなし、同月七日在留特別許可書を抗告人に交付し、同時に右許可期間内に出国するように告知した。抗告人は、右許可期間内に出国せず、同年四月二七日さらに期間の更新の申請をしたところ、同年五月二七日右申請は不許可となり、ここに抗告人は、前記在留特別許可の期間を経過して本邦に残留したこととなり、抗告人に対する退去強制の手続が開始せられ、前記退去強制令書が発付されるに至った。

ところで、本件記録に綴られている疎明資料によれば、さらに、次の事実を認めることができる。すなわち抗告人は、昭和一六年一二月本籍地である全羅南道長興郡長興邑坪場里六一三番地において出生し、間もなく母及び兄とともに、当時横浜市に居住していた父金浪坤と同居するために来日したが、昭和一九年春疎開のため、父を残して他の家族とともに全羅北道郡山市日月洞一四〇番地に帰国し、同地の国民学校及び中学校を卒業し、昭和三二年家族とともに京城特別市に転居、京畿高等学校に入学、さらに、昭和三五年京城大学校工科大学に進み、昭和三九年二月同大学を卒業した。しかるに、抗告人は、さらに日本の大学に進み研究を進めたいと強く希望し、仙台市に在留の父を通じて東北大学工学部建築学科の入学許可を得、日本国政府の仮入国許可をも得たが、韓国政府の出国許可が遅延し、焦慮の余り、前記のごとく密航により不法入国したものであって、入国後は正規の入国でないために前記東北大学に入学の機会を失し、東京において明治大学大学院(修士課程)工学研究科建築学専攻に入学したうえ研賛に努めていたが、不法入国を犯したことについて良心の苛責に堪えず、自首するに至った。なお、抗告人の父は、長く仙台市に居住して、現在は古物商を営み、土地家屋を所有して生活は一応安定しており、現在、胃炎、慢性肝炎、高血圧症のため入院中であって、抗告人の日本在留を熱望し、退去強制令書の発付されたことに心痛している。また、抗告人が在籍している前記明治大学においても、抗告人の在留が許可されることを切望し、一刻も早く共同研究員の一員として研究室に復帰することを願っている。

上記認定の事実によれば、抗告人が、いま直ちに本邦外に送還されるときは、上記本案訴訟の進行に重大な支障を生ずるのはもちろん、その一身上にも回復し難い損害を受けることが明らかであって、これを避けるためには、右退去強制令書の執行全般にわたりこれを停止することについては、却って在留資格の紛淆を生ずるおそれがあるなど、必要性を認め難いが、少くともその一部である本邦外への送還を停止すべき緊急の必要があるものというべきである。なお、上記認定の事実によれば、抗告人が在留期間経過後不法残留の理由で退去強制令書の発付を受けるに至ったのは、無理からぬところではあるが、他方六〇日の在留特別許可期間内に出国のうえ正規の入国手続を経て入国することは、上記事情のもとにおいては、始んど実行不可能のことに属し、抗告人がその実行を逡巡したのも一面已むを得ないところとも考えられるのみならず、他に抗告人がその性格、素行、経歴などのうえで本邦に在留することを違法とすべき特段の事情も存せず、前記本案訴訟の確定を待ち得ない程送還を急がなければならないような特段の事情も認め難いところであって、送還の停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとか、又は本案について理由がないと認めるべき資料は存しない。従って、本件申立は、右認定の限度で理由があるものというべきである。

よって、右と結論を異にし、抗告人の申立を却下した原決定は違法で、本件抗告は理由があるから、原決定を取消し、右認定の限度で抗告人の申立を認容し、申立費用は、民事訴訟法第九六条、第八九条に則り、第一、二審とも相手方に負担させ、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 吉田豊 判事 江尻美雄一 園田治)

<以下省略>

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